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高松高等裁判所 昭和50年(ラ)21号 決定 1975年12月10日

抗告人 杉山敏之(仮名) 外一〇名

相手方 倉本よし子(仮名) 外一〇名

主文

本件各抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は別紙に記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  抗告理由一について

家庭裁判所は、審判の資料を収集するため、職権で事実の調査をし、また、家庭裁判所調査官に命じてこれをさせることができるのであり(家事審判規則七条、七条の二)、事件ごとにその状況に応じた調査方法がとられるのであつて、必ずしも、事件の関係人を法定の手続で調査、審問しなければならないわけではないから、本件で、抗告人杉山敏之、同杉山カツ子が、右調査、審問期日の呼出を受けなかつたからといつて、ただちに右審判手続の違法をきたすいわれはないばかりか、本件記録によると右抗告人らは、少くとも、昭和五〇年二月二〇日の審問期日にはその呼出を受けていることが認められるのであり(記録三四〇、三四一丁参照)、いずれにしても、調査、審問期日の呼出がないことを理由とする抗告人らの主張は失当というべきである。

2  同二の(イ)(ロ)について

成程原審判は、別紙相続財産目録の利用状況欄において抗告人ら主張の三九七番一の畑(公簿上の地目)が公道に面していないと認定している。しかしながら、原審判は、鑑定人中川太郎の本件相続財産に対する昭和五〇年一月一〇日時点における鑑定結果を採用して、本件相続財産の総価額を五七六万六三〇〇円と認定していることは本件記録上明らかであり、右鑑定人作成の鑑定書によると、同鑑定人は本件不動産所在の現地に臨み、右三九七番一の畑が町道に面していることをも考慮して右鑑定をしていることが認められるのであり、その鑑定結果は措信し得べく、抗告人ら主張の取引事例は本件相続財産所在地以外の取引事件であるから、右鑑定結果を左右し得るものではなく、原審判の前記相続財産の評価に違法はない。

3  同三の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)について

(一)  遺産の分割は、如何なる場合でも全遺産を一括して分割しなければならないものではなく、遺産分割の当時、一部の遺産の存在自体が相続人全員に知られていなかつた場合(当該物件が遺産に属すか否かが争われて不明の場合は除く)、その他相当の理由のある場合には、その一部の分割も許されるものと解すべきところ、記録によれば、原審判時においては、抗告人らが被相続人亡倉本庄三郎の遺産であると主張する各物件について、これが遺産であることについては、何等の主張もなされていなかつたし、また、証拠上も明確でなかつたことが認められるから、他に抗告人ら主張の各物件を原審判添付別紙相続財産目録記載の遺産と一括して分割すべき強度の必要性の認められない本件においては、抗告人ら主張の各物件を遺産に計上し、原審判添付別紙相続財産目録1ないし3に記載の各不動産と一括して分割しなかつたからといつて、それがために、原審判が違法となるものではない。よつて、右抗告人らの主張は失当である。

(二)  のみならず、抗告人らの右の点に関する主張は、次に述べる理由からも失当である。すなわち

(1) 同三の(イ)については、

本件記録によるも、亡倉本庄三郎所有の中型貨物自動車二台が本件相続開始時に存在していたこと、又は、本件相続開始時にその売却代金が存在していたこと、或いは、本件相続開始後に相手方倉本よし子らにおいて相続財産である右自動車を他に売却したことを認めるに足る証拠はないので、この点に対する抗告人らの主張は採用し得ない。

(2) 同三の(ロ)については、

本件記録によると、相続財産として鶏舎の存在が認められないでもないが、それは十分な設備の鶏舎ではなく、殆んど交換価値の認められないようなものであるから、強いてこれを遺産分割の対象に加える必要はないものというべく、これを本件遺産分割の対象から除外した原審判の処置は違法とはいえない。

(3) 同三の(ハ)については、

本件記録によると相手方倉本よし子は本件相続開始前から本件相続財産である家屋に夫である前記被相続人と同居して、共にその相続財産である畑を耕し、その相続開始後も引続き右家屋に居住し、右畑を耕作してこれらを管理していることが認められるのであつて、その管理費と右家屋の使用料及び右畑の小作料とは、特に右使用料等が高額であると認めるに足る資料のない本件においては、互に同額のものとして相殺すべきであり、本件遺産分割においては、右使用料等を分割の対象にしなかつたとしても違法とはいえない。

(4) 同三の(ニ)については、

抗告人らは本件相続財産として具体的にいかなる動産が存在していたかを主張しないところであり、遺産分割の対象となる相続財産は、相続開始時に存在するのみならず遺産分割時にも存在することを要するものと解すべきところ、本件記録によるも、本件相続開始時及び遺産分割時に相続財産として交換価値の認められる動産が存在していたと認めるに足る証拠はない。

(5) 同三の(ホ)については、

本件記録によるも、本件相続開始時及び遺産分割時に相続財産として抗告人ら主張の鶏二○○羽が存在していたと認めるに足る証拠はない。

4  同四について

抗告人らは、相手方倉本よし子の負担すべき債務の支払方法を一括払にするよう求めるけれども、当裁判所は、本件記録に照らし、抗告人ら主張の事情を考慮しても、原審判説示と同一の理由により、右債務の支払については、原審判主文掲記の年賦払を相当と認めるから、この点に関する抗告人らの主張も採用の限りではない。

5  その他、本件記録を精査しても、原審判を取消すべき違法の点は見当らない。

よつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 秋山正雄 裁判官 後藤勇 磯部有宏)

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